全国の地酒
古酒の解脱(つづき)
老いた日本酒・・日本酒の解脱(げだつ) saccharomyces sake yabe(サッカロミケス・サケ・ヤベ)という約120年前に世界で初めて清酒酵母として分離された酵母を使った日本の近年醸造技術、それからのちの日本酒の醸造技術の研究成果の高さから“まさかこの香りが・・この味わいが・・私たち日本人が主食としているお米からできたアルコール飲料とは思えないものが全国あちこちの蔵元から続出しています。 ”果物を連想させるフルーティな香り、優雅で高貴な含み香と舌に伝わる旨さと余韻をも楽しませてくれます。 そのような香り芳醇なお酒に目を奪われがちの中で、静かながらもおとなしくも着実に“日本酒の可能性、新たなる美味しさ”として“日本酒の熟成酒のものさし”が大きく変わりつつあります。 さらにより個性ある味わいに対しても理解をし、その個性ある味わいだからこそ「美味しい」「旨い」さらに「時を楽しむ」「時を飲む」といったような心の価値観までも生まれてきています。 日本酒の熟成やヴィンテージ(醸造年度)についても、正しく理解や楽しみ方が浸透し市民権が確立されたといっても時代となりました。
これまでの日本酒を評価する上で、特有の個性となった日本酒の熟成酒は低い評価とされてきましたが、近年、ナッツ、カラメル、漬物、醤油、干しブドウなどのような香りを有し、琥珀色に変化し、甘さも増した熟成酒は“日本酒の新たなる美味しさとしてのものさし”で高い評価を得られるまでになり“日本酒の解脱(げだつ)”とまで、呼ばれたりもしています。※解脱(げだつ)→ある意味仏語で、究極の目標や理想を示す言葉として使われたりしています。 それに伴い3年から5年程度の日本酒に発生する“老香(おいか)”の評価に対しても、近年、必ずや短所として評価されないことも定着しつつあります。 色、香り、味覚、口当たりは、時を重ねるごとに左から右のような変化をしていく傾向にあります。
■初心者と経験者の味覚の分布 確かに研究の分析の結果、日本酒における初心者の味覚傾向には、ある一定の傾向、 相関関係が生まれています。けれど、経験を積んでいくことによって、その傾向は、ばらつきがでてきて傾向や相関関係がないものと変化していく統計がでています。 色々な経験を積み重ねることにより、人それぞれの嗜好に変化と個性をもたらしていくといえるのでしょう。 ■味覚的に見てどうなんでしょうか。 しっかりと丁重につくられた日本酒は、時を重ねることにより、まずアルコール自身が安定しゴツゴツとしたアルコール自身の刺激はなくなり、大変、まろやかでやわらかな舌触りのお酒へと変化します。(アルコール飲料全般) また、そのように感じられるアルコールは、酔い心地や酔いざめも明らかに違うものとして体感して頂けるはずです。 たとえ熟成酒として呼ばれる前の3年から5年程度のお酒であっても、濾過をかけすぎていないエキス分の多いお酒については、奥深い味わいが生まれコクのあるお酒と変化し“実に旨みのあるお酒”に変化していることなど多々あります。そして、このまま安定した保存状態を保っていけば、それこそ“日本酒の解脱”といわれる熟成域に入っていくのです。 ≪老香を感じるようになったら試してみよう!≫ (味わいの落ちた生酒もお試しください。) ◆燗をしてみる まずはぬる燗で・・・いかがですか? 常温で気になっていた老香が気になる度合いが軽減されていませんか。 そして、口に含んでください・・・刺激感のないやさしい口当たりで、奥行きのあるふっくらとした味覚が感じられませんか。これぞ!時を重ねたお酒の醍醐味です。 まだまだ老香が気になるようでしたら、温度をもう少し高くして飲んでみてください。かなり老香に対しては軽減されたことと思います。ただ、その分、アルコールの刺激感は強くなったものと思います。その中で、自分が美味しいと思える温度を探すのも楽しさと奥深さのひとつです。 ◆短所を受け入れ長所として楽しむ(短所と長所は裏表) 納豆、魚醤、鮒すし、なれ寿司、また、沢庵の古漬け、くさや、世界的には、ドリアン、シュール・ストレンミング、キビャック,エピキュアー、臭豆腐などといった《臭いけれど美味しい》《臭いからこそ美味しい》という風な食品を楽しんでいる方の多くは、その類さない個性ある匂いを短所ではなく長所として楽しんでいると思います。 そして、やがてその匂い自身が気にならなくなってしまっている以上に“これからはじまる美味しさを予感させる香り”として受け入れているのです。 香りが変わったわけではありません。受け入れる側のものさしが変化したのです。 もし、老香を感じるようなお酒でも匂いが気にならなくなったら実に“希少で美味しい日本酒”として、また“健康的な日本酒”として楽しめるわけです。 当方の生きてきた半世紀の経験の中で、コーラーとポカリスエットが存在しています。 両者も発売当初よく“薬臭い”と言われていたことがありました。 それがどうでしょう・・・その匂いや味覚は、ごく自然な匂い、味わいとして社会に溶け込んでいきました。 なれ寿司の香りは、一般的に見れば“腐敗臭”に感じて当たり前なのかも・・・けれど、その香りを鼻にするだけで特に酒飲み(ビール派、焼酎派問わず)にとっては、たまらなく日本酒が飲みたくなる香りとして定着してしまっています。 最初、抵抗感はあったにしろ実に慣れというか、その香りを“美味しさの香り”として受け入れて楽しんでいます。 ◆熟成香は、覚えのある香りのようで じっくりと時を重ねたお酒は“何か今までに感じてきた匂いではありませんか?”とよく店頭で問いかけます。その中で、一番多いのが紹興酒(老酒)です。※簡単に説明します。→紹興酒(老酒)は、もち米と麦麹を原料とした醸造酒で、壷で長期で常温熟成させたお酒です。 だから、どこかで紹興酒(老酒)と似ているといわれて当たり前なのかもしれません。どちらかというとライト紹興酒でしょう。 日本酒が搾られて間もない頃のように、魚介に合うような酒質ではなくなってしまっているかもしれませんが、反対に中華料理や味わいの濃い料理や焼肉、角煮、蒲焼きなどの脂がある料理に合います。 ◆自家製熟成酒をつくる 現実的には、日本酒の良し悪しを本当の意味をもって判断できる方は大変少ないのも事実です。現在の日本酒は、ほとんどの場合、醸造技術の高さから酢になったりはいたしません。 ただ、最初の頃と風味、味わいが変わってしまっていることが“熟成”というものさしで判断されず“腐敗”というようなレッテルを勝手に貼ってしまっています。 さらにそのように熟成した日本酒の楽しみ方が全くと言っていいほど、業界人の方の中にも、また一般にも知られていないのも現実です。 よって“腐敗”というようなレッテルを勝手に貼られてしまった日本酒は、料理に使っているとか、お風呂に入れているとか・・・という風に、悲しい形で処分されています。 それならば、老香がどうしても受け入れられないというならば、そのお酒を新聞紙に巻いて10年間床下収納にでもほらっくっておいてください。もしかしたら、思わぬ宝物に化けているかもしれませんよ。(あくまでも火入酒ですが・・・) そして、琥珀色したそのお酒を使って鍋やタレや煮つけなどを作って頂くと今までにはない上質のある美味しさに出会ったりもいたします。 そのようなことを少しでもお伝えしていくことも大切な責務の一つでもあると感じています。 そして、日本酒の記載されている製造年月日も、よく誤解されているので簡単にご説明しておきます。 上記の写真のように、必ずしもお酒が造られた年(醸造年度)とラベルに記載の製造年月日とは一致しないということです。多くの方は、ラベルに記載の製造年月日を食品同様の製造日付とごっちゃにして思われている方が多く、何が何でも新しい方が美味しいと勘違いされていることを多く見かけます。 ちなみに写真下のお酒は、火入れ一切なしの生の無濾過の原酒です。約5年以上冷蔵熟成させてから出荷されているのです。その味覚は、まったくどなた様でもご理解の頂ける古酒のような特有の香りや味覚ではない酒質となっています。 要は“管理さえよければ生でも普通に楽しめる”ということです。 ちなみに当店にある琥珀色した熟成香かおるよく見かけるお酒です。
(吉村秀雄商店から、お手軽価格でお楽しみ頂ける古酒セットが発売されてます。) |